自分の姿勢を取り戻そう
目次
姿勢が痛みに関係すると考えられているわけ
腰痛や頚部痛に姿勢が関係すると強く信じられています。
しかし、実際はその相関はあまりリアリティがなく、不良姿勢が症状に影響するというのははっきりしていません。
腰痛は座位や屈曲姿勢
頚部痛では首の前傾姿勢や頭を下げた姿勢
または猫背や反り腰、スウェイバックなどと様々な姿勢を指摘されます。
確かに腰痛では重量物を持つ際に、前かがみの姿勢で痛めることが多いのは事実ですし、PC作業などによる長時間の座位やスマホの見過ぎで腰や首に痛みを感じることがあります。
これらの経験から、姿勢の悪さ=痛みというラベリングが起こり、その症状との関係を強化しているようにも思えます。
姿勢の変化
姿勢というのは作業や時間帯、気分や感覚によっても変化します。
特に痛みがある人は、痛みに対する予測や痛みを回避するための姿勢を取ることが多くなります。
痛みの予測は無意識にはたらきます。
そのため、ほとんどの人は気がつかない変化です。
例えば、腰痛がある人では腕を動かす時に腰部の多裂筋の筋活動は動かす前に高くなるそうです。
痛みの回避行動は痛みを増強する強化因子でもあります。
こうすると痛くなるという信念がその姿勢を避けようとすることで、痛みの再現性を高めます。
姿勢は心理的にも作用し、背中を丸めれば自分の内側に意識が向きやすく、背筋を伸ばせば自分の外側に意識が向きやすくなります。
目線の高さや視野の広さなども心理的な変化をつくります。
このように姿勢は正しい姿勢を維持しようとすることが困難にもかかわらず、痛みの改善のためだけに姿勢を正しく維持することを指導することが現実的ではないということに指導する側が気づいていないことがあります。
姿勢の文化的な背景
日本人は所作の中に美しい姿勢を見つけてきた民族です。
日本人の美的感覚は理にかなった動き、調和した動きです。
力で支えたり、動かすものではなく
重心の変化や体の連動性が負担なく、相手にも配慮した動きになります。
和の国ですから、相手を打ち負かすことよりもお互いが打ち解け合い、協力しあえる関係のために己を鍛錬するという価値観があります。
日本の武士たちは姿勢の文化を何百年もかけて継承しました。
これが近代化によって、洋式の美を文化に迎合しながら武士の時代の支え合う姿勢から上官によって規律を求められる姿勢へと変化します。
この姿勢は日本の高度経済成長を支えましたが、経済的な豊かさもピークを迎えると幸せの尺度が変わり、やりがいやそれぞれの価値観が多様化していきました。
そういう中で正しい姿勢、美しい姿勢は型がなくなり、文化的な継承がなくなっていきました。
それと同時に心の教育も衰退していきます。
姿勢は心技体のなせるものです。
心を鎮めるのも姿勢、動きをスムーズにするのも姿勢、脳のはたらきや呼吸機能にも姿勢は関わってきます。
力みのある姿勢
痛みを抱えた方は姿勢に力みが感じられます。
「力が抜けない」と感じている人はまだ、自分が力んでいることを自覚できています。
しかし、同じ姿勢を長くしていると自分が力んでいることも気づいていないことがあります。
肩の力を抜く、腰を据える
こういう慣用句は力みのない姿勢を表現しています。
東洋の価値観では上虚下実という言葉があります。
これを姿勢に置き換えると下半身をどっしりと地に着け、上半身の力が抜けた状態です。
仰向けになって、自分の身体に力が入っているところに意識を向けてみてください。
こんな場所が?という発見があるかもしれません。
痛みのない姿勢に
長く座っていると痛い場合は、何時間くらいすると痛くなるのかを把握するといいです。
タイマーをセットして、痛みが感じられる時間の10分前くらいに立ち上がって動くようにします。
これを繰り返し、少しずつ時間を長くしていくと痛みなく座れる時間が増えます。
また、立っていて痛い場合はスクワットのようにしゃがむ動きを繰り返すと一時的に痛みが緩和されます。
痛みが強い場合は深く呼吸をして、吐く息に意識を向けるようにします。
吐いて、吸うと姿勢が伸びて良くなる感じがあればうまくいっています。
骨盤まで呼吸で動くことを感じられるようになると痛みの感覚が変化します。
力みが抜けない人は、仰向けで水の上で波に揺られているイメージをするのもいいです。
イメージは体の感覚に変化を与えます。
力が抜けてきたら、深く息を吐いて背骨の動きまで感じていくと姿勢が良くなった感覚が得られるはずです。
痛みと姿勢は関係がない
そう言い切ることはできませんが、いい姿勢が痛みを改善させるという発想よりもここで紹介したようなボディワークを通じて、自分の身体を心地よく感じることが最初の一歩です。
姿勢のせいで痛むのではなく、痛みが姿勢をゆがめてしまうということ。
姿勢は些細なことで変化できるということ。
この2つだけでも頭の片隅に置いて、ここで紹介したワークを行ってみてください。