臀部痛に対する多様化した解釈
目次
非椎間板性の臀部の痛み
臀部の痛み=坐骨神経痛という短絡的な鑑別は出来ません。
骨盤下腔の坐骨神経を含む、神経の閉じ込めは臀部の痛みや痺れを誘発し、坐骨神経痛と類似いた症状を呈します。
線維性帯の存在、内閉鎖筋/上双子筋症候群、大腿方形筋の病状、ハムストリングスの状態、臀部の状態が原因になることがあり、椎間板性の坐骨神経痛とは明確に分けて考える必要があります。
ischiofemoralインピンジメント、deep gluteal症候群などがここで考えられる非椎間板性の臀部症候群と言われています。
ischiofemoralインピンジメントとは坐骨結節と小転子の距離が短くなることで大腿方形筋が圧迫され、症候的インピンジメントが起こるとされています。
坐骨結節と小転子の距離は大腿関節インピンジメントの患者よりも寛骨臼形成不全の患者で低下することが分かっています。
また寛骨臼形成不全では大腿骨の頚体角および前捻角が増大します。
筋肉的には深層外旋6筋の過緊張、緊張の亢進、短縮などの影響も大きいようです。
ラセーグ徴候と臀部痛
坐骨神経痛を臨床的に検査する際、よく行われるのがラセーグテスト(SLR)です。
仰臥位による下肢伸展挙上テストで坐骨神経の伸張による疼痛の誘発が目的です。
30°~70°の範囲で疼痛が誘発されると陽性となり、感度の高いテストとされています。
しかし、これと混同してしまいがちなのがラセーグ徴候とKernig徴候です。
ラセーグ徴候はラセーグの弟子のForstが1881年に報告しました。
第一手技と第二手技からなり
第一手技でSLR、第二手技で股関節と膝関節を屈曲させ臀部の緊張を弛緩させます。
この時疼痛が軽減すると陽性です。
Kernig徴候は股関節、膝関節を90°屈曲して、そこから伸張した際に疼痛を誘発させるテストです。
このテストは髄膜刺激徴候のひとつでくも膜下出血や髄膜炎によって髄膜障害が起こっている場合に陽性になります。
ここを理解しておくと非椎間板性の臀部痛が脊椎由来の坐骨神経痛と差別化しやすくなります。
坐骨神経痛の偽陽性を見極める際に見直されているのがフリップテストです。
座位で90°まで下肢伸展挙上した際の疼痛回避反応を見極めます。
疼痛回避反応を示す場合は陽性です。
SLR45°以下陽性の方に用いり、このテストで陰性であれば偽陽性の疑いがもたれます。
また、スランプテストを用いて椎間板性の坐骨神経痛かどうかを見極めることもできます。
スランプテストはスランプ座位(骨盤を後傾させた姿勢)で頚部を屈曲し、下肢を伸展させます。
この一連の動作で患側側に疼痛が誘発されれば神経根圧迫が疑われます。
SLR陽性であっても、スランプテスト陰性であれば脊椎レベルでの障害の可能性が低いとも言えます。
スランプテストはSLRよりも感度の高い検査だという報告もあります。
臀部痛にまつわる障害と病因
臀部痛は運動器だけではない原因も疑いにあります。
骨盤内には下殿神経、後大腿皮神経、陰部神経、下殿動脈と静脈など多くの神経や脈管系があり、以下のような症状を呈する場合があります。
下殿神経>殿筋の萎縮
後大腿皮神経>後大腿の痛み、知覚異常
陰部神経>性交痛、性機能障害、排尿・排便障害
下殿動脈>虚血性臀部痛
会陰部動脈>会陰および直腸・性機能障害、排尿・排便領域の虚血性疼痛
下殿動脈>下殿静脈のうっ血
下陰部静脈>外性器および直腸のうっ血
また、子宮筋腫、子宮内膜症、梨状筋の短縮・痙攣・肥大・萎縮
腰痛による臀部の代償
このような症状も確認が必要です。
特に女性は婦人科系疾患のリスクも考慮し、配慮ある聞き取りが必要になります。
臀部痛に対する見方
現在の臀部痛に対する見方は多様化してきました。
臀部から下肢への痛み=坐骨神経痛という解釈は
・椎間板性
・非椎間板性
・骨盤内
・骨盤外
というように神経の絞扼部位によって違った判断をします。
接骨院レベルでは骨盤外の症状が適応しやすいと考えられ、非椎間板性の骨格筋起因の症状もアプローチできます。
しかし、多くの治療院はかなりホームページ上で「坐骨神経痛」を適応症状と記載しています。
当院では坐骨神経痛は適応症状としてみてはおらず、ご来院された患者さんにどの部類に入るかという疑いを示し、検査依頼をしたり、適応できそうな症状に対しては運動療法と徒手療法を用いてADLおよびQOLの向上に努めています。