良い姿勢への導き
目次
姿勢が悪いってどういうこと?
患者さんから多い質問や相談に
姿勢の悪さ
というのがあります。
姿勢が悪いから腰や首が痛い
姿勢が歪んでいるから良くならない
骨盤がズレているから…
などなど
姿勢、骨格の問題が何かの不調を引き出している
そう思っている方はかなり多いのではないでしょうか?
姿勢の良し悪しには多くの誤解があります。
私たちは幼い頃から
「姿勢を良くしなさい」
「気をつけ」
などと知らず知らずに背筋をピッと張った姿勢を良い姿勢だと認識してきています。
このような姿勢は長く続けると体が辛くなってきませんか?
背筋をピンと張った姿勢をした後に脱力してみてください。
逆に猫背でだらっとした姿勢になりませんか?
このように一般的に言われる良い姿勢というのは、人間の構造的な姿勢からすると不自然であることがわかります。
脊柱や骨盤のゆがみ
整体などでは骨盤が歪んでいることが痛みの原因であるとよく言われます。
池袋の接骨院の70%以上がこの考えで腰痛やその他の関節症状、筋骨格痛を治療していますとホームページに記載しています。
しかし、姿勢と痛みについて書かれた論文には不良姿勢が痛みと関連がある証拠について、未だ明確なものはみつかっていません。
患者さんからも痛みと姿勢や骨格の歪みについて度々質問を受けます。
脊柱のゆがみについて側弯を指標にすると
・構造的側弯
・機能的側弯
または
・先天的側弯
・後天的側弯
といった見方ができます。
脊柱が正しく真っすぐな人などいるわけもなく、ただ側弯症と言われる状態や椎間板変性などで構造的な問題により側弯がある場合は観察が必要になる場合もありますが、これらが痛みの要因であるというのは間違った考えです。
脊柱の側弯は筋の収縮によって起こりますし、筋の過剰な収縮はメカニカルストレスにもなる可能性はありますが、それ以前に身体を支え、コントロールできる能力が負荷や抵抗を越えて体を操作できる体力が肝心なところです。
手技の理論によってもこの「ゆがむ」という解釈はそれぞれです。
骨盤で言うならよくある論争に仙腸関節は動くか、動かないかにはじまり、左右の均一性について語られますが、左右がある骨の形状がそもそも同一ではないことから、その考えも現実的ではないと言わざるを得ません。
骨格のゆがみは問題によって生じるわけでもなく、ゆがみが問題を作り出すわけでもありません。
骨格の構造にはmobilityとstabilityと言って、動くことと安定することを内包しています。
このことが姿勢コントロールにおいて理論的に語られることがあります。
joint by jointとして語られる、各関節の運動性と安定性は過剰なmobilityや低下したstabilityによって左右の非対称性につながることは有りえますし、メカニカルストレスや不安定関節による機能障害にも影響するかもしれないと言われています。
これらの事からも、見た目や構造的な姿勢評価以外に、機能的な側面から課題を明確化する事で体の非対称性や構造異常に対して、問題提起と解決策に大きな違いをもたらします。
姿勢(問題)→骨盤矯正(解決策)
機能評価→疼痛の変化(誘発や減少)→必要なエクササイズ(解決策)
このように問題も解決策もすり替えられてしまいます。
姿勢の悪さ→骨盤のゆがみ→骨盤矯正→一時的な症状の緩和→「姿勢が悪いから骨盤がゆがんで痛くなるんだ」という間違った信念の形成
これでたまたまタイミング良く、良くなる人がいるだけです。
姿勢の悪さは何か悪さをするわけではなく、構造的なストレスになるわけでもありません。
神経伝達による姿勢制御
姿勢の変化は構造的な強さではなく、神経伝達によって制御されます。
よって、痛みがある場合は痛みを抱えた姿勢になるし、座りにくい椅子であればそれに合わせた姿勢を取ります。
また、情動や気分によっても変化します。
姿勢制御は体性感覚、視覚、前庭感覚の3つを中枢神経系で統合して行います。
体性感覚は重力や支持基底面の外乱刺激を受けてコントロールする感覚、視覚は文字通り目で見て位置情報を把握します。
前庭感覚は頭の動くスピードに合わせて姿勢をコントロールする感覚です。
それぞれに役割があり、重みづけが違います。
個人差もあり、視覚でに頼る人、重力の感覚に頼る人で姿勢は変化します。
傾斜のある地面から水平の地面に降りると半数以上の人が身体を前傾させて立位を保持します。
これは視覚重視の人の特性で、重力感覚を感知する人は体性感覚重視で水平の位置を認識します。
このように姿勢は神経系であり、筋力や体幹の強さによるものではありません。
デスクワークは視覚重視の作業であるため、視線や視野によって姿勢に変化がもたらされることが多いかもしれません。
では、このことを「悪い姿勢」として評価できるか?というと必ずしもそうでないと思います。
デスクワーク中でも同じ姿勢を取っているように思えますが、目が疲れれば離れたり、腰が疲れれば脚を組んでみたりと姿勢は小まめに変化させています。
良い姿勢よりも心地よい姿勢を
このように考えていくと良い姿勢という概念はひとつではないと理解できると思います。
地面や椅子などの接地面、痛みや刺激による感覚、視線や視野、感情や気分、頭の動きなど様々な状況や条件で良い姿勢は変わっていきます。
そして、姿勢には動きが伴うということも忘れないようにしたいです。
ピラティスなどではエロンゲーションといって脊柱を縦方向に伸ばして動くことをエクササイズします。
日本古来の伝統的な身体作法では仙骨を立て、すり足や体捌きによって重力を活かした操法を採用しています。
バレエなどもつま先から骨を積み上げ「軸」をつくることが、体の連動性になっています。
人間の脊柱は唯一垂直に直立歩行するようにできており、前後、上下、左右以外に回旋の可動域が広く遠くまで見渡せる機能性があり、脊椎動物の中でも特に独特な進化をしたものです。
日常生活の中ではこの優れた機能性を存分に発揮するには乏しく、活動は限局的になっています。
スポーツの世界で姿勢はケガの予防よりも、パフォーマンス面で注目されます。
サッカーなどでは視野の広さなどをパフォーマンスの高さで評価されますが、彼らは視覚的な姿勢制御に頼らず、体性感覚野前庭感覚が長けています。視覚は情報処理に重きを置いているため姿勢制御にはなるべく使わないようになっているようです。
一般生活者でもこの考えは当てはまり、視覚重視の人は眼精疲労しやすくなりますし、体性感覚が脆弱であれば長時間の座位や情動的なコントロールもしにくくなります。
これらは筋力ではなく、むしろ心地よく姿勢コントロールできているか?という部分が大きく、情動や思考的な影響も少なくありません。
しかし、多くの徒手療法家は姿勢を矯正したがりますし、真っすぐであったり体幹の強さだったりを強調しすぎるところがあります。
脊柱は信頼できる強固な器官ですし、猫背であっても反り腰であってもそれが異常をきたすものにはなり得ません。
大切なのは心地よく動き、気分を高められるような「あなたらしい姿勢」を施術者と一緒にみつけていくことではないでしょうか?