首の痛みに伴う感覚のズレ
目次
首を動かさない生活
現代人の暮らしの中で、古代の人と大きく違うことを挙げるとすれば
首を動かさない暮らしになったことは大きな違いのひとつでしょう。
広い平原や鬱蒼と生い茂る森の中で暮らしていた人類は
きっと首を様々な方向に動かして危険を察知したり、食べ物や獲物を探したことでしょう。
しかし、現代人はほとんど首は前を向いたままです。
むしろ街中でキョロキョロと首を動かしていたら不審者のように見られます。
いつの間にか私たちは首を動かさない生活をするようになってしまったようです。
体のコントロールに必要な首の動き
人間の姿勢は前庭感覚と視覚そして体性感覚が統合されて安定しながら動くことができます。
体性感覚では
・外の情報を捉える4つの感覚
視覚、聴覚、嗅覚、味覚
・自分の体を感じる3つの感覚
触覚、前庭感覚、固有受容感覚
これらからなります。
これらは別々に働くのではなく、7つが統合されて働きます。
頭の位置が変わることで姿勢感覚は養われるため、首を動かさない生活はこのようないわゆる五感が鈍りやすくなったり、姿勢のコントロールがしにくくなると考えられます。
デスクワークやデバイス作業によって首の位置が変わらない生活は、頚部へのストレスを増加させるだけではなく、姿勢コントロール能力まで影響するため、頚部痛と腰痛は併発しやすいのかもしれませんし、肩の障害も頚部痛患者に多いとされるのも体性感覚の鈍化によるのかもしれません。
頚部の運動感覚低下と痛み
持続的な首の痛みがあれば、頚部の運動感覚が鈍るため体性感覚も働きにくくなります。
首の痛みのある患者とない患者にヘッドマウントのレーザーゴーグルを着用してもらい、ジグザグや8の字などの目で追う実験では、首の痛みがある患者にエラーが多かったということから首の痛みが運動感覚を低下させていると結論が出ています。
頚椎の運動感覚は頚椎の深部の筋と屈筋で個体差が出やすいようです。
持続的な筋緊張や屈曲動作の繰り返しは頚部への負担を大きくすると考えられます。
頚部に痛みのある患者はない人に比べて、頭部をニュートラルな位置に戻す運動で運動恐怖や思考の破局化が有意に差がでました。
慢性的な頚部痛には、頚部の運動感覚を再訓練する必要があるように思えます。
頚椎症患者を対象とした固有受容感覚障害の検査では位置感覚の誤差が健常者とは有意に大きかったようです。
頚部の痛みは身体的なイメージを変えてしまう力があります。
頚部の固有受容器トレーニング
頚部の運動制御を評価するには
・頚胸接合部の伸展
・上半身前後運動
・両側の肩挙上
・片側の肩の屈曲
・過重を伴う腕の90°屈曲
・体幹の屈曲
これらの動きから頚部の運動が回避的に制御されていないかを確認します。
眼球の運動制御
・頭を動かさずに眼球だけ左右に動かすことができない
・ポイントの動きを追う時に眼球と頭が別々に動く
このような場合は動眼神経障害の危険性も考慮する。
頚部の固有受容器に対するトレーニングでは
頭部につけたレーザーポインターを壁面の的に合わせたり、不安定な床での閉眼肩脚立脚、タンデム歩行など
距離感や位置情報、バランス系の歩行エクササイズを取り入れます。
頚部の問題といっても
首の骨の配列を矯正したり、筋肉を揉みほぐしたりすることが首の固有受容感覚を高めることにはつながりにくいようです。
頚部の症状への誤解
頚椎、頚部の症状に対して
対処的な治療は盛んにされています。
しかも、これらの治療はあたかも「根本治療」かのように宣伝されすぎています。
首や頭部というのは脊柱でも繊細な動きを要求される場所であり、単純に前後左右上下ではないことが分かります。
眼球との連動、姿勢の維持、平衡感覚などとの統合が出来てこそ根本的な改善になります。
頚部痛が再発率が高く、持続的に症状を訴える理由が分かる気がしませんか?