椎間板ヘルニアの接骨院での保存的治療の可能性はあるか?
目次
椎間板ヘルニアは髄核による神経根圧迫なのか?
椎間板ヘルニアを訴える患者さんの治療は徒手療法ではRed flagsに分類される症状です。
腰痛のRed flagsは
・椎間板ヘルニア
・脊柱管狭窄症
・分離すべり症
などが構造的疾患として徒手療法のみでは危険であり、医師の診断と指導が不可欠な病態です。
その中でも椎間板ヘルニアについて接骨院で対応するために理解を深めておきたいと思います。
接骨院で椎間板ヘルニアの患者さんを見かけることは非常に多いと思います。
患者さん自身も椎間板ヘルニアの既往を伝えてくださいますし、整形外科の受診を依頼すると画像所見にて発覚する確率も多い気がします。
しかし、これらの症状が今現在の腰痛や下肢症状を引き起こしているかどうかとなると、その真偽は難しいのが椎間板ヘルニアの鑑別です。
以前、私がお手伝いさせていただいていました整形外科では画像上にヘルニアが見受けられないのに、症状は椎間板ヘルニアの症状であったり、その逆に椎間板ヘルニアの症状は全くなくても画像上は椎間板ヘルニアであったりすることがありました。
このようなことから椎間板ヘルニアは果たして神経根の圧迫であるという理解で本当にいいのだろうか?
そう思うことがあります。
もちろん、慢性化することで改善しにくくなったり、予後が不良になることで歩行障害やしびれなどの異常感覚の残存が起こることもあり治療には医師の診断と患者の意向を大切にしながら進める必要があります。
そこを前提とした上で椎間板ヘルニアの神経根症状についての考察を進めてみたいと思います。
椎間板ヘルニアの神経根症状の予後予測
椎間板ヘルニアは保存的治療によって約6ヶ月で症状は軽快し、予後は良いという報告があります。
椎間板ヘルニアは初期で椎間板の炎症によるサイトカインによる疼痛発現、神経内膜の浮腫による神経症状が主な病態であり、時間経過とともに炎症の収束、症状の消失といった経過をたどることが多いそうです。
突出したヘルニアはマクロファージなどの貪食細胞によって、浸食され減少すると言われています。
慢性腰痛のリスク因子に大きな影響があるものとして椎間板ヘルニアまたは椎間板変性は代表的です。
椎間板ヘルニアを起因とした慢性腰痛は治療が困難な腰痛という報告があります。
初期症状から回復した場合は予後が良く、慢性化すると治療が困難になる可能性が高い。
これが椎間板ヘルニアの注意が必要なところです。
腰部筋による腰椎安定と椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアを伴う慢性腰痛症の患者は腰部多裂筋の萎縮が見られ、腹横筋の不活性、多裂筋の倦怠感が強い傾向があるようです。
しかし注意が必要なのは腹横筋、多裂筋の形態的変化が椎間板ヘルニアの改善と関係があるとすることは意味がありません。
体幹部の筋力、筋肉量が椎間板ヘルニアを収束させるわけではなく、体幹のコントロール、姿勢維持などの自己効力感が症状を軽減させると考えられます。
椎間板ヘルニア患者の筋力低下や倦怠感は運動恐怖などの心理社会的要因とも関係が深いと考えられます。
下肢症状を伴う場合は、歩行や立位での症状発現、増悪を感じざるを得ないため、「動くこと」や「活動量」への積極性が低下します。
急性期でない場合、脊柱の可動化と下肢の運動によって腰痛の強さ、SLR、腰部可動域(ROM)、下肢痛が有意に改善されたという報告があり、安静が必要ではないことを示しています。
神経根症状に対するガイドラインに基づくアドバイスのみとアドバイスに加えた機能回復訓練では10週間後に機能回復訓練群の方が活動制限が大幅に回復したが、腰痛に関してはその後持続的ではなかったとのこと。
痛みとQOLを同列で解釈せずに、QOLを優先していくなかで痛みに対する指導に移行する方が効率的かもしれません。
椎間板ヘルニアに対する認識
椎間板ヘルニアと聞くと治療が困難に感じたり、または何の根拠もなくカイロプラクティックなどの徒手によって改善できると漫然と施術してしまうことがあったりと徒手療法ではその評価や治療の真偽は不透明なものです。
たまたま改善することもあれば、症状を長引かせて慢性化することで改善が困難になるケースもあります。
このような運任せな治療は患者さんにとってギャンブルであり、むしろリスクしかないと言えます。
初期(発症~4ヶ月)くらいには神経根の神経内膜は虚血による浮腫とサイトカインによる炎症が起こるためにこの時期の見極めと医師への検査依頼で画像上に椎間板ヘルニアが存在するかを明確にしておくことが必要です。
炎症収束後は脊柱の機能回復訓練と下肢運動、活動量の増加、体幹機能の運動恐怖に対するエクササイズを中心に行うことが下肢神経症状を伴う患者に対する疼痛管理になります。
慢性化や骨棘による神経根症状は根治が難しい症状ではあることは変わりありませんが、症状を軽減させ、活動範囲を広げ、認知の変化によって生活をより良い方向へと動かすことは十分に可能だと思いました。