慢性腰痛の治療に運動を推進していくために
目次
慢性腰痛には運動療法とは言うが?
慢性腰痛の治療で効果があるとされているのは運動療法です。
運動療法は慢性腰痛で最も支持されている治療法ですが、腰痛患者の多くは運動恐怖という破局的思考を持っているためになかなか持続しにくく、治療への参加も消極的になりがちです。
そのためか運動療法をメインに謳っている整骨院や整体院は数少なく、その場の体感を重視したマッサージや整体の方に重きを置いているようで、医学的な根拠に基づく治療法の選択をセラピスト自らが放棄している場合も見受けられます。
当院では運動療法を推奨しつつ、慢性腰痛患者さんに運動への心理的ハードルを下げるための施策や会話、心理的な誘導を用いる工夫をしています。もちろん徒手による初期の処置や対処的な施術も行いますが、運動による症状の改善効果を体感できるように様々な取り組みをしています。
その中で運動強度をどこに設定すべきか?という課題があります。
慢性腰痛の患者さんは運動に対する抵抗があるので、いきなり強い強度の運動を処方した場合にリスク(精神的な側面)があると考えるからです。
慢性腰痛の運動療法に対する負荷
慢性腰痛患者にどのくらいの運動負荷をかけるかという課題は結論から言いますと、効果という側面では高負荷な方が改善度は高いと言われています。
そこで高負荷とは?となるのですが、患者の主観として「きつい」と感じる負荷と、METs指数が基準になるかと思います。
METs指数は0が座って動かない状態として、その3倍の負荷なら3METsとなります。
家事全般が3~4METsくらいになるので、汗ばむ以上の運動にならないと高負荷とは言い難いことになるイメージです。
コロナ禍になって人々の活動量は大幅に減少しました。
高齢者では男性が60%女性が74%も運動習慣が減少したようです。
腰痛が今後増えるだけでなく、転倒リスクや循環器系障害、膝や股関節の変形リスクも高まることが容易に想像できます。
運動療法と運動習慣
慢性腰痛の患者さんの多くは「いつも以上に痛む」状況になって来院されます。
その中で慢性腰痛が構造的な異常が問題ではないことを知っている患者さんは皆無です。
ほぼ100%の方が腰に問題があると信じています。
また、繰り返し腰痛を起こす可能性があることを知っている人も少ないため、治療によって痛みが改善すれば(元の痛みレベル)「治った」と信じています。
慢性腰痛の患者さんは座りっぱなしの日常、重いものを持つ、不慣れな姿勢での作業などが多く、毎日の生活が不活動、繰り返し動作、自己効力感の低さが根底にあります。
運動療法で得られるのは日ごろ使いにくい筋肉を動かすことで、多裂筋など腰部の筋にかかる代償動作による負担を軽減させることです。
特に臀部の筋は股関節の運動の主軸を担っているため、体の土台として筋力がある方が姿勢の変換がスムーズになります。
また、バランスの訓練や協調性エクササイズを加えることで姿勢コントロールがしやすくなります。
そこに加えて、運動習慣は活動量を増やすことが目的となります。現代の活動量を考えると歩数で+1500歩と言われていますが、コロナ禍では+2500歩に増えています。
歩くこと自体が減り、運動機会が減っている日常生活では家事くらいしか活動することがありません。
動画配信サービスなどで個人的にエクササイズをしている人もいます。これはやらないよりはもちろんいいことです。
運動習慣の大事なポイントは
・継続できること
・効果を実感できること
・ながらやすきまでできること
など時間や対価がかからないようにすることです。
毎日、ご飯を食べたり、歯を磨くように「動く」ということが日常の中にある状態が必要です。
運動療法と運動習慣は車の両輪のようなものですので、慢性腰痛の方にはどちらも必要なことです。
運動に対する物語を共有する
ここまでに書いたことは運動が必要だということ、強負荷の方が効果はあるということなどです。
しかし、実際の臨床の場ではこのような理屈が通用しない場合がほとんどです。
前述したとおり、慢性腰痛患者さんは運動に対して様々な抵抗を持っている人が多く、日常生活でも動くことが少ない暮らしをしています。
また、「治る」=「痛みの程度が我慢できる」という認識の人も多くいるため、継続した管理や習慣化を求めていない人もいます。
これはなぜかというと、人は自分の物語を優先する脳の仕組みに基づいているからです。
痛みが改善するといういくつかの選択肢がある中で、もし仮に苦労や苦痛が少ないものがあれば一時的にでもそれを採用すると思いませんか?
小さな積み重ねの体験の方が身につくのは分かっていますが、劇的な体験の方がインパクトが強いためにそちらを優先してしまいます。
しかし、二度目三度目が同じ体験であるか分からないのですが、そういう体験繰り返すことを信じています。
運動療法が定着しにくい課題はこのようなインパクトが少ないからかもしれません。
私たちはこのようなインパクトよりも、評価と確実性で患者さんに信頼を得られるようにすることが唯一の道だと考えています。