腰痛の神話から抜け出すために
目次
慢性腰痛は構造的な問題ではない事実
慢性腰痛は体や椎骨のゆがみや、姿勢の悪さによって引き起こされると信じられていますが、実際のところは違うようです。
整体や骨盤矯正などに行くとこのようなことを指摘されます。
・左右差
・骨盤のゆがみ
・筋肉の硬さ
・可動域の少なさ
・脊柱のゆがみ
・椎骨のズレ
・姿勢の悪さ
患者さんに分かりやすく説明するためにこのような言葉を用いているという先生がよくいます。
しかし、このような言葉は誤解も招きかねないため腰痛の原因として伝えるには的確ではありません。
慢性腰痛はもっと多面的であり、暮らしの環境や心理的な側面もある複雑な症状です。
当院では最も効果があるとされている運動療法や認知行動療法などを併用しながら、症状の改善を図るようにしています。
ではなぜ、このような方法が優先されず、未だ効果に乏しい整体や骨盤矯正が事実とは違う原因にアプローチしつづけるのでしょうか?
整体や骨盤矯正は効かない改善法なのか?
整体や骨盤矯正といった類のものは全くのまがい物であるか?というとそれも少し違うかもしれません。
筋肉をほぐすことで痛みが緩和する人もいますし、姿勢が正されたことで痛みが軽減することもあるでしょう。
何かを施されたことで良くなったと感じる人もいます。
原因は背骨であろうと骨盤であろうと筋膜であろうと構わないわけです。
慢性痛の場合は痛みの感じ方が症状の主体ですから、感じ方が変化すれば痛みは和らぎます。
改善したかどうかは疑わしいですが、痛みが和らぐことはありえるということです。
治るわけではなく、痛みが落ち着いたということなのです。
よって、繰り返しやすいのも慢性腰痛の特徴でもあります。
「根本治療」という言葉
よく根本治療を謳う治療院もあります。
この根本という言葉に私は違和感を感じるのですが、「表面的ではない」「その場しのぎではない」というところが言いたいのだと思います。
ただ、手技のみではどんなに深い部分にアプローチしてもそれは対処療法だと思います。
私たちは根本解決というよりも本質的なところからアプローチすることで「体づくり」「動きの再教育」を柱にすることを大事にしています。
痛みの改善には体のベースづくりが重要になります。
自分の体をコントロールできる力と自信です。
筋力?それとも筋肉の質?
慢性腰痛の患者さんと話していると
「筋力がない」「筋肉が硬い」このようなことを仰います。
立って、歩くということができていれば「筋力がない」ということは考えられません。
また、体の硬さは普段の動きや姿勢のバリエーションが影響します。
普段からしない動作はやりにくいということです。
不慣れな動作は痛みを誘発しやすくなります。
筋肉の硬さや弱さではないならば、なぜ繰り返し腰痛を引き起こすのでしょうか?
慢性腰痛の患者さんの多裂筋は筋肉内脂肪の量が多いと言われており、これが炎症を引き起こしやすい理由とされています。
筋肉内脂肪は30分以上のウォーキングを半年かけて行えば減少するとも言われており、やはり適度な運動をすることで腰痛は予防しやすくなります。
筋の弱さや硬さではなく、筋内で起こる生理的な化学反応が炎症の原因となっており、食事や運動の指導で効果があると考えるのはここからも伺えます。
脊柱の安定性
慢性腰痛患者では脊柱に不安を感じている方が多いのも特徴です。
脊柱または椎間板はとても強固な組織ですが、普段から痛みを抱えた方は脆弱な組織に感じるようです。
体感的に不安定感を感じることで脊柱起立筋群や多裂筋といった傍脊柱筋群は剛性を高め、痛みの出現に対して予備動作を行います。
痛みを繰り返し感じることで、このような筋緊張は持続しやすくなります。
痛みは経験によって末梢で起こるものではなく、中枢系の影響を受けるものへと変わっていきます。
脊柱を安定させるコントロールは、姿勢制御機能や固有受容感覚に拠ります。
「硬さ」を基準にアプローチするとうまくいかない場合があるのは、姿勢制御のために働く筋剛性を無理に緩めよう、ほぐそうとする対処だからです。
不安定さと対比として硬さがあるため、不安定さと代償的な機能低下を検査の中で当たりをつける必要があります。
そして、恐怖感なく動かせるという自信とコントロール感を身につけていくことを経験していくと腰痛は怖いものではなくなります。
腰痛の神話から抜け出るために
慢性腰痛患者さんは腰痛の神話から抜け出るための経験とケアを必要としています。
徒手での施術はその助けになることは間違いありませんが、過剰に依存してしまうと慢性化を助長することになります。
自らが能動的に体と向き合うことで、腰痛に対する認識が変化していくのです。
痛みに固執していたことが、動けることに喜びを感じたり
怖さに怯えていたことが、挑戦できたことを楽しめたり
そういう自分を高めたり、喜べた経験が腰痛から解放されていきます。
当院の患者さんたちは、こうやって変わっていきます。
私たちは私たちの技術で治したとは言いません。
患者さんが乗り越えたことを一緒に喜びます。