労働者の健康管理、プレゼンティーイズムを予防するには?
目次
労働による不調を減らすために
毎日8時間労働をしているだけなのに、なぜか体が痛くなる。
運動不足と片付けてしまえばそれも一理あると思いますが、仕事を休んだり、早く終わらせることもできないため痛みを我慢して働く事を選択せざるを得ない状況だという方はおられるのではないでしょうか?
今の企業は生産性を高めることを求め、いかに効率的に多くの利益を得るか?ということに集中しがちです。
その反面、社員のウェルネスは損なわれるとプレゼンティーイズムの高い状態での労働を強いられます。
プレゼンティーイズムとは健康に問題を抱えてながら働いている状態で、低リスク群で年間一人当たり50万円、高リスク群で年間一人当たり70万円もの生産性の損失が起こると言われています。
ただし、体調を損ねたり、症状を訴えたりは個人によって差があります。
ひとりひとりが健やかに仕事に励むことができるようにするために、個人レベルではどんなことができるのでしょうか?
健康的な人とそうでない人
同じように働いていても健康的でいられる人とそうでない人がいます。
すぐに風邪をひいたり、腰や首が痛くなったりする人と何が違うのでしょうか?
単純に体力の違いなのでしょうか?
それとも習慣の違いなのでしょうか?
免疫力の個人差
風邪などの感染症に対する罹患率は体力や体の強さよりも生活習慣によることが大きいと思います。
やはり自己管理できるかどうかというのは働く人にとって重要なスキルになるようです。
かぜ症候群に対し予防効果のある信頼できる研究は
・プロバイオティクス
・ビタミンD
・エキナセア
・手指洗浄
・マスクの着用
これらは実際に効果があると証明されており、腸内環境と免疫力は密接であり、腸内の細菌フローラを整えるという考えは間違いではないようです。
ビタミンDの欠乏は屋内環境で働いている人の90%以上が起こっているとも言われ、中でも研修医などの就労時間が不規則な人にはより深刻だという報告もあります。
エキナセアはハーブの一種でヨーロッパでは医療にも用いられる。サイトカインの産生、ナチュラルキラー細胞の活性化などを助けウィルスや菌などの感染から予防するようですが、信用度は低いそうです。
手指洗浄やマスクの着用はコロナ禍でも経験していますが、感染予防効果はあるとされています。
風邪をひきにくい体質というならば、このように
・腸内環境
・ビタミンD
・公衆衛生
これらが習慣化および生活や食事等から身についている人の可能性が高いと思います。
また、タバコや栄養不良、睡眠不足、長時間の不動、早食い、精神的ストレス、乾燥、夏の疲れ、気候の急な変化などでも免疫力の低下は起こり、様々な不調を訴えます。
適度に疲労回復のためのボディケアを実践したり、食事・睡眠・運動を心がける必要があります。
身体の痛み
オフィスワーカーの筋骨格系の有病率は首(41.6%)腰(41.6%)肩(40.6%)だったというデータがあります。
それぞれの痛みのスコアは首1.67、腰1.55、肩1.31でした。
これらの痛みは総疲労と相関していて、生産性の集中とも関係しているようです。
筋骨格系の痛みの多くは非特異的であり、原因を特定するのは困難です。
痛みには個人差があり、痛みの経験が多く、長い人ほど痛みに対し感受性が高くなります。
腰痛は平均9.9年、肩こりは12.4年も罹患しており、長期化しやすい傾向にあります。
腰痛が少ない県は愛媛県、肩こりが少ない県は沖縄県です。この2県の特徴は精神的なストレスが低い県という点です。
痛みの解放度が高くなるとQOLや幸福度も高くなる傾向が見られることからも、肉体的な痛みは生活の質や精神的な満足度にまで
影響を及ぼします。
腰痛や肩こりは体の歪みや骨格のズレによるものではなく、このような環境因子、心理的な因子も含んだ複雑な症状です。
体力がいくらあっても、痛みから回避することは難しく、筋力を鍛えていても長時間同姿勢やストレス環境下での作業が続けば腰痛や肩こりは起こります。
プレゼンティーイズムを減らすために
個人間での健康管理で必要になることは
・生活の管理
・衛生的な習慣
・社内環境
・メンタルヘルスの最適化
この4点が不可欠です。
生活の管理
セルフマネジメントはビジネスマンにとって重要なスキルのひとつです。
欧米では肥満の人や喫煙者が出世できない程、ヘルスマネジメント=自己管理とされています。
好きなものを食べたり、飲んだりするのであれば自己管理は不可欠です。
運動もせずに食べたい時に食べたいものを食べていたら確実に太ります。
生活の管理は何を最優先にすべきか?と言われたら確実に睡眠でしょう。
そして栄養と運動がセットになっていきます。
様々な情報が錯そうする中で、すべてやろうとすると破綻しますのでここでは習慣化の障壁や、課題について書いておきます。
睡眠の管理
プレゼンティーイズムの中でも体の痛みに次ぐ第2位が睡眠の悩みです。
睡眠負債や不眠はプレゼンティーイズムと心理的苦痛への関連性が高いと言われています。
睡眠改善によって腰痛や肩こりといった痛みの軽減が見られたという報告は数多く存在します。
睡眠は唯一の脳の休息です。
実は日本人の平均睡眠時間は7時間50分と韓国に次いで短く、フランスと比較すると1時間短いそうです。
日本とフランスの労働時間は日本の方が3時間も長いとされ、これが睡眠時間の差に繋がっていることが想像できます。
中でも30‐40代は6時間台となっていて平均を下回ります。
睡眠満足度は40代以上の半数を越える人が満足していないと回答しています。
これらのことを踏まえて睡眠に対する意識の低さ、重要度が低い傾向にあります。
その代表的な行為は日本人の4人に3人がスマートフォンを寝室に持ち込んでいると言われ、寝る直前までメールやSNSのチェックなどをしていると答えました。
1960年代では国民の9割が11時には就寝していたのに対し、現在は深夜1時となっており夜型生活の人が多くなっていることも原因です。
日本人の睡眠は短いというよりもここ数年「短くなっている」し、労働時間は休日が増えた割には減っていないというのが現状です。
最近は時間術やタイムマネジメントに関する本なども多く出版されていますが、睡眠時間の確保と仕事の時間、余暇の時間の効率化と関係しないことも分かっているようです。
睡眠時間の捻出と睡眠満足度の向上をどのように取り組めばいいかはまた別の記事で調査したいと思います。
栄養管理
健康的な食事というといかに食べてはいけないものを食べないようにするか?ということと、いかに豊富な栄養を補給するか?ということが話題になります。
この両方が難しく感じるのは
・制限はストレスになること
・栄養にフォーカスするとコストが高くなること
・調理に手間がかかること
・食は人づきあいと密接であること
この4点が障壁になります。
我慢、経済、手間、人間関係という非常にストイックになってしまう要素が増えてしまいます。
そこで視点を変えてみることをお勧めします。
・血糖値のコントロール
・主食の置き換え、副菜を主食化
・食事のシェアリング
私個人としては、この3点を実施していくことで比較的低コストで高栄養、不必要な食生活の排除がしやすくなりました。
食事は人生のたのしみの一つです。制限や我慢ではなく、量やタイミングを考慮する必要があります。
ちなみに糖質の標準的な摂取量は
標準体重×活動量×0.6÷4
※標準体重=身長(m)×身長(m)×22
※活動量
低い(ほとんど座っている生活)25~30
普通(通勤や買い物などで一定時間立って行動し、軽い運動をする)30~35
高い(移動や立っている時間が長く、活発に運動する)35~
私の場合は307gが一日の糖質摂取基準になります。
日本人の平均摂取量が300gですので、ほぼ同数になります。
しかし、この割合がショ糖や果糖によるものが増加すれば血糖値は高くなります。
糖質は摂ってもいいですが、
・食物繊維で摂る
・加工品を減らす
・脂質と一緒に食べる
といった工夫が必要になります。
空腹を感じたり、ストレスが溜まれば罪悪感を感じるような食べ物に惹かれやすくなるのは当然です。
ここでも心理的な満足度は影響すると考えておきましょう。
運動習慣
運動の習慣化については
運動が苦手でも体を鍛えることは可能です|サンシャイン通り接骨院|池袋の腰痛・肩こりケア (sunshine-street.jp)
こちらの記事に書いてある通り
・ベビーステップ
・記録
・習慣化スイッチ
などのテクニックを使用していくと「意思」に関係なく、生活の一部になりやすいと思います。
運動も必要に迫られない限り、好んで行うことがなかなかできない習慣ですが、運動を習慣化できた人の多くは運動の効果を実感することができており、満足度も高いようです。
日本人の運動習慣として出来ている人はは70代が最も多く、20‐40代が最も少ないのが実情です。
やはり、働く世代の人が運動をする余裕がない、または意識が向いていないといったところです。
運動習慣は所得の高い人で実施率も高く、一日の歩数も多くなる傾向があります。
年収200万~400万の世帯では約70%の人が運動習慣がありません。
しかし、400万~600万の世帯になると35%しか運動習慣がない人がいません。
歩数も年収200~400万では5000歩ですが、400~600万になると7000歩になります。
運動に限らず、健康意識は所得が低くなればばるほど習慣化されにくいようです。
社会的な不満が影響している?
ここまで調べていく中でひとつ気づいたことがあります。
プレゼンティーイズムの要因として中核を成す要素に「不満」というものが根強くあるように感じます。
体調や痛みのような症状を訴え、仕事や作業に影響が出ている人はもしかすると何らかの不満を抱えている可能性があります。
健康習慣を実践しにくい人も経済的な弱者であることからも、生活に困窮している人々は痛みを抱えやすいという結果につながっているようにも思えます。
職業的には積み荷作業や保育、介護などの職業の人が腰痛の発生頻度が高いとされています。
また、長期間に渡り劣悪な職場環境で作業をする人に腰痛の発生リスクが高いというデータもあり、肉体的な疲労だけでなく心身共に苦痛を感じることが体調への悪影響になると想像できます。
そのため、近年は従業員満足度を高める試みをする企業も増えています。
社員が心身両面で満たされる状態で働ける職場環境への工夫はプレゼンティーイズムの低下に繋げやすく、離職率も減少することが予測できます。
離職する人の理由の30%は人間関係というデータがあります。特に医療や福祉関係者はこの理由での転職が最も多いそうです。
また、これらの理由の中で一番大きな不満は人事評価に対する不満、次いで給与に対する不満ということでお金よりも認められているという実感が大事だと分かります。
健康的に労働に従事できるように
健康的に労働するためにいくつかの考えと行動が見えてきました。
①寝る、食べる、動くを生活に
②労働時間の短縮
③外出し、歩くこと
④食生活の健全化
⑤幸福度を高める
⑥認め合う文化と人間関係
⑦意見するスキルと行動力
⑧経済的な余裕
これらのことから個人的な感覚や思考、信念も大きく影響することがあるためパーソナリティを高めることやマインドの教育も必要になります。
企業側の努力としては、文化形成や評価制度、採用などがポイントになりそうです。
従業員側としては、健康習慣の実施、人間性を高めること、自己評価と他者評価の差を少なくするためのコミュニケーション力などが求められます。
これからの社会
健康という側面から見ていくとこれからの社会は企業側の努力も必要ですが、働く側にも健康であることが求められます。
それは病気をしにくいとか、動けるとかの表面的なことだけでなく精神性の豊かさやコミュニケーション能力という相手を思いやる気持ちや自己を満たすことができるスキルや感情のコントロールといった部分も含めてです。
ウェルネスプログラムの実施以前に、生産性と効率化という取り組みを見直し、人間らしく労働することで成果が生み出せる仕組みを構築することが課題になります。
日本人にはまだお互いの意見が違うことやそれを前提にしたコミュニケーションや議論が根付いておらず苦手です。
他人を受け入れ、支え合い、きちんと意見することは幸福度を高めます。
生活習慣は仕事の生産性と効率化以上に集中と思いやりが生まれることで、文化度が高まります。
よく意識が高いなどと揶揄されますが、そうではなく余裕があるかどうか?というところに答えがありそうです。
健康で豊かな社会を創っていくのは個人のものの見方や感性です。
正しさよりも健康であるかどうかが指標となる社会になることを望みます。