扁平足と腰痛
目次
足部の機能から腰痛の改善と予防を考える
腰痛や膝痛といった慢性化しやすい症状では体の機能を高めることが不可欠です。
動かない事、動かせない事が痛みの感受性を高めることに繋がるからです。
特に両者とも股関節の機能についてはよく言われていますが、実は足の機能も重要なポイントになります。
足の機能は足のアーチと足関節の過内反というのが足部の機能では問題とされます。
これらの機能低下、機能障害が腰痛にはどのような影響を及ぼすのかを考えることで改善と予防の手立てとして活用できるのではないかと考えます。
足部の機能と腰痛
足部の機能が腰痛に影響するという研究は限られているようです。
その中で、扁平足、足首の不安定性、矢状面の閉塞、過度の回内が腰痛に関連していることが示されています。
過度の回内では下肢長の差が生じる原因となり、骨盤の傾斜を生じることで運動連鎖の中断による腰痛の潜在的な誘発因子になり得るのではないか?という報告です。
下肢長の不一致は腰痛と関連があるという報告は数多くされているようですが、因果関係は今のところはっきりしません。
腰痛を持つ300人に対し、70%が左右の非対称性を確認でき、80%が足裏の圧に左右差があることが確認されました。
その中で脚長差を改善すると88%に姿勢の変化が生じたともあります。
脊柱側弯症の患者も下肢長差が生じやすく、骨盤の捻転を伴うために腰痛が誘発されやすいという報告もあります。
これも脊柱の側弯が足部に過度の内反が生じさせるとのことです。
これらの研究からは足部の過内反-下肢長差-骨盤の傾斜および捻転-運動連鎖の中断という機械的なメカニズムが腰痛に影響するという考えになります。
カイロプラクティックなども下肢長差に注目した評価を行いますので、このような考えに近いのではないでしょうか?
サウジアラビアの研究では扁平足を持つ人の腰痛有病率について調査したものがありました。
その研究では扁平足の人が腰痛を持つ割合が65.9%。そのうち51.6%が急性腰痛に罹患した経験があり、48.4%が慢性腰痛に進行していました。
扁平足は急性腰痛を3.28倍、慢性腰痛を4.5倍確率を上昇させていました。
Rheumatologyに掲載された論文には歩行中の回内足が女性のみに影響していることを報告しています。
これらのことから考察すると足部の問題が腰痛に関係する可能性を疑う場合は、歩行の相から見ていく必要があるようです。
扁平足は後脛骨筋の障害とも言えます。
後脛骨筋は脛の骨の後ろにある深部の足関節の底屈筋です。足の内側縦アーチと横アーチを保持する役割もあるためこの筋の機能が低下することで扁平足が起こります。
後脛骨筋の障害
後脛骨筋腱不全症
成人の後天性扁平足の80% に認められる。原因は機械的ストレスの反復、炎症、退行変性、外傷が挙げられる。
機械的ストレスには過回内が影響しており、女性に多い。
高血圧、糖尿病、肥満、ステロイドホルモンの使用、後脛骨筋周囲の手術歴がある人が75%を占めることから、後脛骨筋の血流障害が大きな原因と考えられています。
症状は後脛骨筋腱に沿った疼痛、腫脹、下腿内側までの放散痛が認められます。歩行や走行で悪化するが炎症というよりは退行変性である場合が多い。
視診で外返しの足をしており、立位で後方から観察すると外側の足趾が見える。
また片脚heel raiseで挙上困難、挙上に伴い足の内返しができない。
Medial Tibial Stress Syndrome
MTSSは運動によって引き起こされる脛骨内側の痛みのことです。長距離ランナーによく起こる症状だと言われています。
骨膜の肥厚はあるが炎症はほとんどない。脛骨遠位1/3に皮質骨の骨密度の低下があるため、皮質骨の微細損傷およびリモデリングが関与しているとも言われています。
メカニズム的には脛骨の骨膜や皮質骨に対して牽引ストレスがかかることで起こるとされてきましたが、脛骨遠位1/3に後脛骨筋が付着していないことからこれが直接の原因ではないと言われるようになりました。
はっきりとしたメカニズムはまだ不明ですが、後脛骨筋を含む下腿三頭筋や長趾屈筋などの複合したけん引力が影響しているのではないか?と考えられています。
MTSSは舟状骨高の低下も関連性が考えられており、内側縦アーチのアライメント不良や繰り返しの強い制動による脛骨周囲へのストレスなども考えられます。
しかし、これらの障害と腰痛の相関性は不明です。
扁平足および後脛骨筋障害が腰痛に関連しているという明言はできません。
別の視点から考察してみることにします。
足部の姿勢制御と腰痛の相関性
足部の障害が腰痛に直接的な影響を与える事実は証明されていないことが分かりました。
では、今度は姿勢制御という視点から考察したいと思います。
足部障害と腰痛の相関性は不明ですがいくつかの相が報告されていました。
・骨盤の傾斜
・下肢長差
・運動連鎖の中断
・歩行時の回内足
これらの特徴は姿勢として捉えることもできなくはありません。
このような特徴が腰痛を誘発しているかは証明しようがないのですが、逆説的に腰痛が原因でこのような姿勢戦略を取っている可能性もあると思います。
再発性腰痛の人は固有受容体の姿勢制御が変化しているようです。この症状を持つ患者は胴体、体幹部の硬化と剛性によって姿勢制御することが分かっており、足首の固有受容器への依存が高いと言われています。
腰痛が再発した人は振動による姿勢制御で傍脊柱筋よりも足首の筋の固有受容制御を行っていることが証明されています。
腰痛患者の姿勢制御は腰仙部の固有感覚の変化、体幹筋制御機能障害、腹横筋の姿勢変動性の低下などが見られ、足部の剛性を基礎として姿勢安定を戦略的に行っていると考えられます。
このような結果から腰痛を経験しているという前提がある場合、足部の筋が剛性を高めることで、体幹部の脆弱性を代償していることが分かります。
後脛骨筋と腸腰筋
腰痛の治療を紹介する動画などで後脛骨筋を緩めると腸腰筋も緩む。
腰痛には後脛骨筋をほぐす!
などというタイトルのものが沢山出てきます。
しかし、論文レベルになるとほとんどそういう内容のものがありません。
その中で、後脛骨筋の選択的な強化と腸腰筋のストレッチをすることで回内足の舟状骨の降下、扁平足の動的バランス、筋肉活動が改善するというデータがありました。
腰痛の改善ではなく、扁平足に対するアプローチとしては有効であり、運動連鎖に影響する可能性がありそうです。
腰痛=扁平足と結び付けるのではなく
腰痛の患者の回復の手立てとして足部を評価することは優先順序としてはそれほど高くはありませんが、下肢長や骨盤の傾斜、歩行分析の必要性がある場合、足部の剛性、足底アーチ、踵骨のプロネーションなどを考察する意味はあります。
患者さんの質問でも
「歩き方が悪いのか?」
とよく聞かれますが、痛みによって歩行の相は変化しますし、扁平足だから腰痛というよりは腰痛があることで扁平足がネガティブに働くことがあったり、腰痛や坐骨神経痛などの下肢血流の低下により後脛骨筋の障害につながり、歩行の相に変化を来す場合があるとも思います。
まずは腰痛の評価がベースとして大事です。
カイロプラクティックなどで下肢長のみで判断していることをよく見かけますが、下肢長を見るならば
腰痛評価→歩行分析→足部評価→下肢長
という流れが妥当ではないでしょうか?