痛みへの関わり方
目次
痛みは体験である
激しい腰痛に見舞われた時、どこかがおかしくなった...そう思うのではないでしょうか?
骨がズレたり、筋肉が切れたり
そうでもなかったらそんな痛みを感じることなどない
そのように思えることは当然だと思います。
しかし、痛みはこのような損傷の大きさに比例するものではないようです。
例えば、その痛みに不快さやネガティブな情動が加わると、痛みはどうなりますか?
いつも以上に強く感じるだろうと想像できます。
痛みというものはそのように体のどこかを傷つけただけでなく、そこにある感情や感覚によって体験的に学習されたものなのです。
腰痛の原因は?
腰痛の90~99%は認識可能な特異的病理すなわち、はっきりとした病的な問題がないと言われてます。
この中で27%は椎間関節性腰痛、22%は筋筋膜性腰痛、16%は椎間板性腰痛、7%は仙腸関節性腰痛とも言われており、腰痛の多くはこの中の1つ以上に侵害受容源があるとも言われています。
しかし、これらがどの程度腰痛に関与しているのかが不明であり、混在し、範囲が限局しないため鑑別しにくいそうです。
そうなると腰痛は構造的な問題だけでは解決しません。
一度ギックリ腰になった人で3ヶ月以上痛みを経験すると60%以上は一年以内に再発するリスクが上がるとも言われています。
腰痛は繰り返し起こったり、慢性的な痛みが強くなったり、弱くなったりするのは治癒することがないからでしょうか?
そもそも組織の損傷が例えば手の技術によって元通りになるのでしょうか?
また、組織の損傷がないのに再発するというのはどういうことなのでしょうか?
繰り返す痛み
痛みは繰り返し起こります。波があり、強い時もあれば弱い時もあります。
何かに夢中になったり、気持ちがいいときには痛みは和らいだりします。
何が痛みの強さに影響しているのか?というと
それは脳の状態です。
脳には痛みの調整機能のようなものがあります。
脳内のホルモンでもあるセロトニンやドーパミンという物質によって、脳内に変化が起こることで痛みを和らぐことができます。
セロトニン系であれば、心地よさや安心感
ドーパミン系であれば、達成感ややる気など
情動にも絡んできます。
逆にノルアドレナリンなどのストレスホルモンが増幅すると痛みが強くなることもあります。
よって痛みは構造だけ直そうとしても改善にはならず、周辺の神経組織の状態や情動の変化、環境や人間関係によっても変化します。
痛みに取り巻く因子
痛みには生物学的、心理的、社会的因子というのがあります。
よって、構造的な問題はこの中のひとつである生物学的因子でしかありません。
しかし、運動器疾患はこの部分に問題がある場合も少なくはなく、精査する必要がないというのは違います。
こちらは痛みに関するリスクファクターです。
このようにその人を取り巻く環境を含めて痛みが影響しているということを理解しておくと良いでしょう。
徒手療法(整体、マッサージ)は効果あるのか?
徒手療法での効果というとそこははっきりとしないとされています。
痛みの管理という点であれば、徒手での介入は有効である場合があります。
強く、痛みを伴う刺激は痛みを一時的に和らげます。
これはDMICといって、簡単に言うと痛みで痛みを紛らわせるような仕組みです。
繰り返し行うとより強い刺激を欲したりするので、痛みは緩和しますが依存的な状態を生み出します。
徒手療法の適切な介入は
・やさしい
・安心できる
・動きがある
ということが条件だと考えます。
一方的な介入、無理やり、力づく
このような介入には一時的な身体の変化は認められても改善や回復に導くことは難しいでしょう。
手で触れる介入には「癒し」の目的と「治療」の目的があると思います。
癒しの目的を満たすためには、情動的な健全さや肉体的なリラックスが大切です。
治療の目的を果たすためには、症状の回復と機能的な適応が求められます。
そのためには、術者との間に信頼関係が必要ですし、マナーや節度をお互いに持ち合わせたいです。
そして術者はその症状についての病態を把握し、患者の生活の悩みに対し適切なアプローチを選択できる観察力がいります。
痛みは管理が大事
痛みというのは不思議なもので、追えば追うほど付いてくる。
そうやって付きまとうような存在です。
大切なのは人間関係とも同じで適度な距離を保ちながら、うまく付き合うことです。
痛みそうなときの対処や、痛くなった時の対応
周囲の人への配慮などを事前にしておくことで痛みの不安は減らすことができます。
痛みは疾患や損傷を伴いますが、治すべきものではなく
そこにあるものです。
要するに自分の暮らしに害のない程度の痛みであれば、それはむしろ必要でもあります。
私は患者さんに痛みを自分でコントロールできるようになろうね
と言います。
身体の動きが自由になるだけで、コントロールの幅は広がります。
痛みは治療よりケアと管理でコントロールしていく。
当院ではこのような発想を大切にして、患者さんに関わっています。