振動による腰痛への姿勢戦略
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電車などで立っている時に痛む腰痛
慢性腰痛の多くは条件付けにより痛みを訴えます。
その中でも当院に通院する患者さんでなかなか改善するのに難儀するのが、今は痛くないけど通勤時の電車に乗っている時が痛む。
という腰痛の方々です。
イメージとしては電車の揺れに対する姿勢制御が影響しているように思うのですが、これが出勤時と退勤時で症状の出方に差があったり、ラッシュ時と空いている時でも違ったりするので、姿勢だけではなく、緊張感や心理的な感受性も影響するように思えます。
このような条件付きの腰痛をどのように快方へと向かわせることができるのか?
調べていくといくつかの観点が必要になることが見えてきました。
姿勢制御
姿勢制御についてはやはり外せないので、振動時の姿勢制御のメカニズムを考察してみました。
すると単関節制御とマルチセグメントによる制御という戦略が出てきます。
単関節制御は主に足関節によるコントロールを指します。
足部による姿勢制御は足底の支持基底面で足底圧中心を管理します。
支持性(support)、バランス(balance)、安定性(stability)の3つの要素が姿勢維持には欠かせないため、支持基底面は足底圧重心を感知し、フィードバックおよび重心の動揺をフィードフォワードによって予測的に管理します。
矢状面上では足関節の屈伸可動性、前額面では内外反の可動性が姿勢制御には働いています。
人間の立位姿勢は前傾することで、行動のための準備ができます。そのため、背面の筋肉特に下腿三頭筋は重要で、足関節はおよそ背屈モーメントが作用しています。
これによって足関節のstiffnessを重視します。下腿三頭筋の短縮は膝の屈曲と足首の背屈制限を起こし、背筋や脊柱起立筋群の過緊張を生じさせやすくします。
しかし、視覚によるフィードフォワードによると足関節のstiffnessがあっても、重心動揺を減らすことができるようで視覚は姿勢制御で非常に優秀な機能としてはたらきます。
これが痛みや神経障害がある場合になると、支持基底面は減少し、代償的な立位になります。
下腿三頭筋による足関節制御はより筋力を要し、視覚によるフィードフォワードは痛みの感知により鈍化します。
このような外乱刺激に対し、外的にも内的にも身体は反応し、姿勢に対する応答をします。
マルチセグメント制御は多関節による全身性の姿勢制御戦略です。
こちらは中枢系の姿勢戦略ですが、腰痛患者の場合、痛みに対する回避姿勢、呼吸倦怠感、体幹筋の硬化、足関節への依存度上昇などにより、姿勢安定性は低下します。
体性感覚による姿勢制御は、腰痛患者ではより固有受容感覚よりとなり、基底支持面を狭くしながら足関節を硬化させ、脊柱の前傾と多裂筋など傍脊柱筋の等尺性緊張を招くことで再発リスク、痛みの発生リスクを高めているように思われます。
呼吸と姿勢制御
最近の研究では腰痛患者は呼吸の倦怠感によって姿勢不安定性を呈することが分かってきているようです。
人為的に作られた呼吸倦怠感の中で腰痛患者に姿勢制御を行わせると、姿勢不安定感は増しました。
腰痛患者は腰痛のない人に比べても、呼吸運動による疲労を招きやすく、姿勢維持の観点からも腹横筋や腹斜筋の過緊張や不良姿勢による筋張力の不足が体幹の支持性を低下させる可能性もあります。
慢性腰痛患者に吸気トレーニングを8週間施したところ、足首の筋肉の振動に対する反応が小さく、背中の筋肉の振動に対する反応が大きく、吸気筋力が高く、LBPの重症度が低下しました(P <0.05)。
呼吸トレーニングは腰痛患者の姿勢制御は背部、足部固有受容器に依存しやすい状態に変化をもたらします。
呼吸トレーニングは痛みの変化に影響したわけではなく、運動制御に影響を与えることで腰痛をコントロールしやすくするのではないか?
という解釈が適切なように思えます。
振動による腰痛へのアプローチ
電車や立位による振動の影響とも取れる腰痛の発生に関して、ひとつ見えてきた課題としては、腰痛患者はマルチセグメントでの姿勢制御戦略が立てにくいということ。
その理由として、腰痛患者は固有受容器戦略を無意識に反射的に採用しており、運動制御機能が低下します。このことから足関節のstiffnessを生み、下腿三頭筋の過緊張や短縮、傍脊柱筋の伸張性緊張、前傾姿勢の強化という姿勢制御戦略となります。
またそこに横隔膜の倦怠感が生じることで腹壁の筋や傍脊柱筋の収縮に課題ができます。
心理的、社会的な要因が強いのではないか?と思うところがありましたが、実際は肉体的にも神経的にも姿勢に対して興味深い反応を腰痛患者は行っているようです。
腹式呼吸や体幹トレーニングが腰痛の介入に有効だとされるのも、単に腹圧を高めるという理由ではなく、呼吸の疲労を減らすことで姿勢制御をマルチセグメント戦略に移行しやすくすることが目的です。