中年期の肥満が及ぼす慢性腰痛への影響

目次
肥満の人の日本国内の状況と腰痛との関係
日本人の肥満の人の割合は男性33.0%、女性22.3%です。
最も多い年齢は男性が40代、女性が60代です。
男性は最も働き盛りな年代で女性は閉経後に体重が増加していることが伺えます。
但し、男性は年を重ねるごとに増加傾向にあるのに対し、女性は減少傾向にあり、特に都市部での女性の肥満率は下がっているようです。
地方に行くと男女共に肥満の人の割合は多くなることから、都市部の方が見た目を気にして食生活に留意するのか?
それとも都市部の方がよく歩いたり、運動を習慣化している人が多いのか?
いずれにしても面白いデータです。
腰痛の有病率は男女ともに50代が最も多く、約6割の人が腰痛を抱えているようです。
体重が重いと腰痛が発症しやすいのか?という問いに対しては、はっきりとしたことは分かっていません。
しかし、体重の増加が急激であると腰痛の発症との相関があるようです。
そこから考察するのであれば、40~50代で急激に太った場合に腰痛の発症リスクは大きくなると言えそうです。
肥満と筋肉量
肥満の人は非肥満の人よりも筋肉量が多いのですが、可動性低下、筋力の弱化、不良姿勢などが見られ、その数値よりも視覚的、体感的には弱く見えます。
その理由として、拮抗筋の共活性化の低下、神経伝達の不適応、筋肉構造の変化など肥満による生理学的な変性が起こることが挙げられます。
この事実は、肥満の人の脊柱や関節構造に負の影響を与えます。
高齢のサルコペニアの人と肥満の人の身体能力の比較実験ではサルコペニアの人の方が肥満の人よりも身体能力が高かったという結果も報告されており、肥満の人の筋肉量は支持筋力としても活動筋力としても機能性が低下しています。
また、肥満の人は非肥満の人に比べて、筋力に高い数値を出せますが、体重換算すると非肥満の人よりも低い筋力を示します。
これは肥満が代謝障害であることを示唆しており、カロリーオーバーだけで済む問題ではないという理解が必要です。
急激な体重増加は体に大きな負荷をかけ、その有り余るカロリーを体内に蓄積するわけですから細胞レベル、組織レベルで何か変化が生じてもおかしくはありません。
肥満の人の筋力は数値的、体型的な見た目だけでは判断できないと考えておくべきです。
体重の増加は筋肉内脂肪を増加させ、炎症性サイトカインによって筋肉量、筋力低下に作用します。
このように肥満は筋肉内の組織を変性させ、機能低下を引き起こすことが考えられます。
姿勢維持筋力でもやせ型の人よりも肥満の人の方が強いのですが、姿勢安定性は不十分です。
しかし、この問題は訓練すれば解消します。
筋肉量があっても、様々な要因から筋活動に制限が生じ、肥満性のサルコペニアと言われるように活動障害や活動性の低下を起こしています。
訓練による効果はありますが、減量と運動の同時進行を介入の中に入れていく必要があるようです。
しかし中年期の肥満は加齢性のものだけとは言い切れず、その環境や食習慣の変化などが影響する背景も考察しておきたいところです。
ストレスと食欲
ストレスはより多くの食物を摂取する機会を増やします。
コルチゾール(ストレスホルモンと言われる)リアクターの高い人は低コルチゾールリアクターの人よりもストレス後の摂取カロリーが高くなり、甘いものをよく食しました。
健康な男性にコルチゾールを4日間投与すると、消費エネルギーは多少増加しますが、食物摂取量が劇的に増加しました。
このようなことからストレスは食べる量を増やし、肥満の原因になると考えられます。
40‐50代のストレスについてはこの年代は職場で責任ある立場になったり、仕事も家庭も忙しくなります。
活動量が増え、労働時間が延び、睡眠時間が削られるというサイクルになるため、脳の視床下部はこの活動を支えるためのカロリーを求めるようになり、食の満足感が高い塩分と脂質の多い食を好み、甘いものや酒などの摂取量が増加します。
しかし、労働に割く活動はデスクワークなどの動かない作業が多いと仕事をしてカロリーを消費していても、筋力や持久力といった運動での消費が少なくなるため生理的な活動より、精神的な活動が優位となるためグリコーゲンを消費しきれず脂肪を蓄積してしまうようです。
コルチゾールの抑制に効果があるとされるのが脂質の摂取であることからも、ストレスが高まれば脂肪分の多い食生活を好みやすくなるのは頷けます。
このように中年期のストレス過多な暮らしが過食の引き金になり、急激な体重増加が生じることで代謝障害を起こし、筋や関節に変性や代謝異常が生じることで腰痛を発症する可能性は十分に考えられます。
肥満による腰痛指導で踏まえておくべきこと
食事指導の難しさと工夫
食事のみによる減量は体脂肪量だけでなく筋肉量も低下させてしまいます。
食事+軽度の有酸素運動は筋肉量の低下を抑えることができるようです。
体組成計の計測で肥満の領域の人に食事だけを制限するように指導すれば、ストレスがより高まり、食べることへの欲求が更に増すだけでなく筋肉量の低下を招く恐れが出る為、運動指導しながら食べるものを選別する(メニューを作るなどの)取り組みが必要になります。
同じ脂質でもサラダ油よりはオリーブオイルの方がストレス値を下げることに効果があるだけでなく、血管などの循環器系への負担も軽減します。
代替することができるものを献立に入れることができると無理なく食事管理しやすくなるかもしれません。
また、血糖値コントロールは気分のムラや神経系のはたらきにポジティブに作用するようです。
2週間の血糖値管理で見えた事
こちらの記事も参考にしていただけると嬉しいです。
傍脊柱筋の筋量維持と椎間板変性
筋肉量の減少の危険因子を調べると、BMI 25以上の内臓脂肪は傍脊柱筋の断面積の減少因子でした。
週900kcal以上の身体活動は男性の傍脊柱筋の面積の減少を軽減しました。
毎日45分以上のウォーキング(3Metz×持続時間×体重×1.05)は傍脊柱筋の損失を減らし、ひいては転倒を防止しました。
肥満の人は非肥満の人に比べ、椎間板変性症である率が高まります。
L4‐L5間の椎間板に顕著に見受けられ、特に女性の肥満+腰痛患者はどのレベルの腰椎にも椎体終板変性が見受けられるようです。
傍脊柱筋上部の脂肪浸潤が多く、椎間板変性が顕著で加齢性の変性が下部腰椎レベルで見られます。
これらのことから代謝性障害は椎間板の変性にも影響し、腰痛の因子をつくります。
更に脂肪の筋肉内への浸潤による炎症も生じやすく、急性腰痛や椎間板性腰痛の原発になり得ます。
このような状態は「動かない」ことで悪化しやすいとされており、適度な運動や定期的な立ち上がりなどを行うことで予防的な役割にはなりそうです。
肥満の人の腰痛指導のポイント
肥満の人の場合は、
まずは活動量を増やす
ウォーキングなどで傍脊柱筋の筋面積を減らさないようにすることです。
できるだけ日常にある動きをベースに強度のある習慣に変えていきたいところです。
組織的には椎間板や終板への代謝障害があることを前提に、傍脊柱筋や膝伸展筋力を維持します。
入浴や睡眠といった休息や自律神経系への介入も大切で、日常生活のリズムや活動時間の時間管理をすることで何をするか?ではなく、何もしない時間を大切にしてみることでリラックスできるかもしれません。
セルフケアとしては姿勢コントロールのためのエクササイズなどで体幹筋を鍛えたり、深い呼吸のエクササイズなども心身にポジティブに働くでしょう。
食生活は血糖値コントロールを軸にして、カロリー摂取に過敏になりすぎないことです。
どうしても脂質、塩分は抑えにくい項目ですので、オリーブオイルなどに変えましょう。
仕事中は座りすぎないようにします。
適度に立つことはストレスの緩和にもなりますし、いい香りやリラクゼーション効果のある音楽はコルチゾールの分泌を低下させてくれます。
この全てをする必要はありません。
まずは太り過ぎれば、背骨や骨盤が歪むなどという単純な考えを持つのではなく、体内の生理的活動や脳の反応に大きな負荷をかけていると理解してほしいです。
これではストレスがストレスを呼んでしまいます。
そこでこの中からひとつできることを実践してみてはいかがでしょうか?
明日の自分は今日の自分です。
自分にプラスになることを意識してみてはいかがでしょうか?